人事制度

人事制度の目的

  • 従業員の処遇(給与等)を適切に決定する
  • 人材配置・昇格等を適切に行う
  • 従業員の意欲を向上させる
  • 効果的な人材育成を図る
  • 定着率を向上させる
  • 組織を活性化させる
  • 総額人件費を管理する
人事制度の存在意義は企業の方針や業績、経営環境などによって異なってくるものであり、人事制度の目的は企業によって様々ですが、どの企業においても共通するのは、業績を向上させ、それを継続させるという経営目的があり、人事制度はそのために存在するということです。
まず経営課題を明確にし、人事上の問題点を洗い出し、そして人事制度はどうあるべきかを検討することが重要です。

人事制度の変遷

年功主義 矢印 日本では古くから年齢や勤続によって賃金が上がる年功序列型の人事制度がとられてきたことはあまりに有名です。これは当時工場労働者などの熟練工が多かった時代に年齢・経験とスキルが比例したことや、高度経済成長という背景があってうまく機能してきた制度ですが、次第に人件費の負担が大きくなり、また、産業構造の変化によるホワイトカラーの増加から賃金とスキルがマッチしなくなり、さらに深刻なポスト不足が生じたため、新たな人事制度への転換が求められるようになりました。
能力主義 矢印 1970年代に職能資格制度を中核とした能力主義が広がっていきました。この制度は職務遂行能力を評価し、資格等級にあてはめて職能給を支給するという仕組みなので、一律に上がる人件費の増加や、賃金とスキルのミスマッチという問題に対して有効に機能するものと期待され、また、ポストと能力を切り離すことでポスト不足にも対応できると考えられました。しかし、従来の年齢給・勤続給についてはこの制度でも残されたことや、評価の対象が保有能力だったために能力が下がるという考え方がなかったことから、結果として年功的な運用になっていきました。現在でも中小企業を中心にまだ多くの企業において、この制度は運用されているものと考えられます。
成果主義 バブル崩壊後の不況に突入した1990年代、アメリカを参考にした成果主義人事制度を先駆けて導入する企業がでてきました。業績と成果によって社員を評価・処遇し、成果をあげた社員には年齢・勤続に関係なく高い報酬を与えることで競争意識を煽り、モチベーションを高めて業績の向上を図るとともに、優秀な人材の社外流出を防止するという趣旨の制度です。年功序列・終身雇用は崩壊し、大きな転職市場が生まれ、2000年を過ぎると大半の企業が成果主義へとシフトしましたが、結果的に成果主義は多くの企業において失敗したといわれています。しかし、現在も、そして今後もなお、成果主義自体は主流として続いていくものと思われます。

成果主義が失敗した理由

多くの企業において失敗したといわれる成果主義ですが、原因は様々なものがいわれています。
成果主義が失敗した理由
成果主義が失敗した理由
公平な人事評価が行われなかった
・評価者間の評価基準が統一されず、大きなズレがあった
・相対評価を採用している場合には、適正な評価にならない従業員が発生した
・そもそも管理職に成果を基準として評価する能力がなかった、または成果で評価することを躊躇した
評価の過程が不透明で、評価結果がフィードバックされなかったため、従業員の納得を得られなかった
従来の年齢給・能力給が部分的に残されたため、成果主義とは名ばかりの実質年功的運用となった
成果主義にもかかわらず降格制度がないという制度的欠陥により、無気力なベテランは安泰となり、若手の士気が低下した
目標管理制度が機能しなかった
・目標のレベルと達成度の基準の設定が困難であり、結果として高い目標を設定する従業員が報われず、全体の目標水準が低下した
・仕事よりも目標達成が目的となり、目標管理シートに載っていない地味な通常業務がおろそかになった
・ルーチンワークしかない部署、チームで動いているため個人目標をたてようのない部署が無理に目標を設定したため、チームよりも個人目標重視になるなど弊害が生じ、結果として生産性が低下した
成果主義にあわせて裁量労働制が導入されたにもかかわらず、勤怠項目(遅刻、残業時間、休暇)が依然として評価の対象となり、実質的に裁量がないまま残業代だけがカットされた
上記の他にも様々な原因が考えられますが、これらは全て付随的な要因にすぎません。成果主義が失敗した本当の根底にある原因は、成果主義を導入した目的が適正な評価・処遇ではなく、年齢とともに上がり続ける人件費を抑えることであったためです。多くの企業において成果主義は総額人件費削減の方便として使われました。
成果主義は人件費削減の解決手段にはなりません。結果として適正な評価と処遇をうけられない事を悟った多くの従業員の士気低下につながり、人材が流出し、生産性は下がり、企業は実質的に多大なダメージを被ることになりました。

成果主義は間違っていたのか

少なくともアメリカを参考にして日本の企業が導入した成果主義人事制度は、多くのケースでよくない結果をもたらしたことは間違いありません。しかし、人事管理において、成果をあげている従業員とそうでない従業員の処遇を同じにするという事は絶対にやってはいけません。従業員を実績や成果で評価し処遇に反映させるという考え方は間違っているとはいえません。日本における成果主義の失敗は言い方を変えれば、導入した制度そのものに欠陥があった、あるいは運用の仕方に問題があったという事ではないかと考えられます。

今後求められる人事制度

普遍的で万能な人事制度は存在せず、また、年功主義と成果主義の二項対立的な考え方では人事上の課題は解決できません。企業の規模、業種、年齢構成、方針、課題などを考慮せずに制度の優劣を論じることは不毛な議論といえます。一般論にこだわるのではなく、それぞれの企業に適合した独自の制度を構築し導入することが重要です。
中小企業に特有の事情 年功序列型の人事制度は、右肩上がりの経済成長と、それに伴う売上・組織の拡大が前提でしたが、これはマクロ環境全般から見た場合の話であり、中小企業については必ずしもその前提があてはまるものではなく、年功的な要素も含めて柔軟に制度を検討すべきであるといえます。
また、中小企業にとって人材不足や定着率は深刻な問題であり、大企業のように社内で格差をつけて競争を煽ったり、成果のみで優秀な人材を厚遇することが、必ずしも組織の活性化や成長につながるとはいえません。そもそも競争に向いていない風土の企業も存在するため、慎重に制度を検討する必要があります。
人事コンサルティング会社との違い

人事制度の構築を支援するコンサルティング会社は数多くありますが、そのコンサル内容には法的な視点が欠けているということが一般的にいえます。人事制度は労働法とリンクする部分が少なくありません。仮に労働法を無視して制度を設計した場合には、後々に想定外の損失やリスクが発生することも考えられます。
当事務所は労働法に精通した専門家としての立場から法的な要件を満たした人事制度を設計します。また多くの場合、人事制度移行の際に就業規則や賃金規程の改定が必要になりますが、あわせて承ることが可能です。

企業に貢献しない複雑な制度

企業に貢献しない複雑な制度

人事制度を検討する際、難解な用語を使って非常に複雑な制度をつくりあげるコンサルタントがいますが、難解で複雑な制度と組織のパフォーマンスには何の相関関係もありません。むしろ難解で複雑な制度は従業員が理解できません。理解できないものを納得できるはずはなく、したがって士気向上にも組織活性化にもつながりません。従業員はみな専念すべき職務があり、人事制度はあくまで会社が本業で成果をあげるための補助ツールでしかありません。従業員に負担をかける制度は優れた制度といえません。重要なのはその企業とそこで働く従業員に適した制度をつくることであり、そのためのポイントをおさえることです。

組織力を高める人事制度のポイント

POINT1 経営目的

業績の向上(=労働分配率の低下)

POINT2 経営背策としての人事制度改革の必要性
POINT3 人事制度の目的
  • 従業員の意欲向上
  • 組織の活性化
  • 組織力の強化
  • 適正な指導育成、能力開発
  • 適正な人員配置、人材活用
  • 定着率の向上
POINT4 人事制度のポイント
  • 適正な評価と処遇(評価制度の透明性・公平性・納得性を確保)
  • 合議体による人事評価、あるいは評価を調整する評価委員会の設置
  • 社内格差よりも業界水準を重視した賃金体系
  • 目標管理制度の運用を改善(目標を評価と連動させず、プロセス管理に活用)
  • 管理職の能力向上(適正な評価が適正な指導育成を可能にする)
  • 経営理念、方針、戦略、人事ポリシーを明確にしたうえで、求める人材像を明示
  • 従業員の満足度向上(給与、賞与、労働条件、人間関係、仕事環境、福利厚生)
  • 従業員の達成感・連帯感を追求
  • 昇進昇格基準の見直し
  • 複線型キャリアパス制度の活用

当事務所が構築する人事制度

「評価制度」「賃金制度」「等級制度」の3つを基本フレームとしたトータル人事制度を構築します。「年功型」「職能資格制」「職務等級制」「成果主義」「役割等級制」の5類型を基本としながら、様々な構造の人事制度に柔軟に対応することが可能です。

評価制度
  • 評価要素の決定(求める人材像を反映)
    勤務態度・保有能力・職務遂行能力・プロセス・発揮能力・業績・成果
  • 評価基準の決定
  • 人事評価シートの作成
    部門別、職種別、階層別
賃金制度
  • 賃金体系の決定
  • 年齢給・勤続給・職能給・職務給・役割給・成果給・各種手当
  • 給与テーブルの作成(給与水準・給与レンジの決定)
    経営成績に連動(総額人件費のコントロール)
  • 賞与制度の設計
  • 年俸制
等級制度
  • 等級表の作成
  • 人材要件の設定(職能要件書・職務記述書等の作成)
  • 昇進昇格基準の決定(役職任免要件の決定)
  • キャリアパス設計(職種転換ルールの決定)

設計・導入の流れ

PHASE1
  • 現状分析
  • 人事上の課題・問題点の洗い出し
  • 制度設計の方針・方向性を検討
  • スケジューリング
PHASE2
  • 社内アンケートの実施
  • 社内プロジェクトチームの編成
  • 職務調査・職務分析
PHASE3
  • 各種制度の設計
  • シート類作成
  • 制度運用マニュアル作成
PHASE4
  • 賃金・等級移行ルールの策定
  • 仮格付けと人件費シミュレーション
  • 移行調整
PHASE5
  • 従業員向けに説明会を実施
  • 就業規則・賃金規程の改定
  • 新制度運用開始
PHASE6
  • 導入後の運用支援、修正・見直し
  • 評価者訓練の実施

導入後のサポート

人事制度は通常導入後に本質的な問題が発生することがほとんどであり、運用しながら見直していくことが必ず必要になります。ご希望に応じて導入後のサポートについても承ります。